第22回 息のつけない政治の季節

 

 

    2018年が明け、「政治の季節」が始まった。最終的に国の最高指導者を決める選挙にまで続く長い政治の季節になる。もっとも実際には、各党は昨年から全国171自治体で行われる首長選挙の候補者選定に忙殺されていた。ゴルカル党の幹部などは、首長選挙対策で忙しくて、重要課題であるノファント前党首の辞任で空席になった国会議長の後任選びを後回しにしているともらすほどだった。

    その統一地方首長選挙は候補者登録が8日から10日まで行われた。大統領選挙の前哨戦としても多くの話題を集めている地方首長選挙戦の事実上の始まりであり、これが政治の季節の幕開けとなる。なぜ政治の季節と呼ばれるかを、選挙庁の選挙日程で改めて確認してみよう。

 

    地方首長選挙の正式な選挙キャンペーンは2月15日から6月24日までだが、実際には候補者登録と同時に選挙活動は始まる。投票日は6月28日だ。その開票結果が明らかになって様々な議論が噴出していると思われる頃の7月4日には、早くも国会と地方議会の候補者登録が始まる。そしてそのわずか1カ月後の8月4日にはいよいよ大統領選挙の候補者登録が待っている。次から次に重要な政治日程が続く。議会選挙と大統領選挙のキャンペーン期間は9月23日から2019年4月13日までの長丁場だが、実際には登録完了と同時に選挙モードに入る。つまりこの政治の季節は、今年1月初めから2019年4月17日の投票日まで途切れることなく続くことになる。(仮に決選投票になると8月7日まで伸びる。)この日程を見ただけでも政治の季節が実感できる。

    今年の統一地方首長選挙は、全有権者の半数近くを占めるジャワ3州(東ジャワ、中部ジャワ、西ジャワ)をはじめ、多くの主要州が対象となっているので、総選挙と大統領選挙を来年に控える各党は全党体制で臨んでいる。また議会選挙と大統領選挙が同時に実施されるのも今回が初めてだ。議会選挙では国会、地方代表議会、州議会、県/市議会の各議員を選ぶ選挙が一斉に行われる。前回の選挙では合わせて2万近くの議席を目指して約20万人が立候補したと言われるマンモス選挙だった。今年はこれに大統領選挙が重なるのだから治安当局が治安の維持に神経をとがらせるのも理解できる。

 

   ところで20万人の候補者は選挙キャンペーンに一体いくらぐらいのお金を使うのだろうか。いろいろな説があるけれども、全体では膨大なルピアが経済活動の現場に流れ込むことだけは間違いなさそうだ。政治の季節は企業活動を慎重にさせると警告する評論家がいる一方、候補者が使う選挙費用はTシャツや横断幕や選挙カー、さらにはランチボックスなどまで、小規模事業者に恩恵をもたらす支出が多いから経済刺激効果が大きいと予想する人も少なくない。もしそうなら消費の低迷で今ひとつ勢いの出ない今の景気を押し上げてくれるかもしれないと期待も広がる。

   もっともその選挙費用は、政治との癒着で事業拡大を狙う悪徳商人・事業者からの融通によるものが少なくないと言われているので、「民主主義の祭典」である選挙が「汚職の温床」になると心配する人が多いのもうなずける。新聞の評論でも選挙と汚職の問題が連日のように掲載されている。インドネシア有権者にとって、金権政治のまん延はもうウンザリだろう。改革の時代に入って4度目の総選挙になるのに、またもやこの悪習が繰り返されそうな予感が濃厚になっている。

   選挙を巡る腐敗の悪循環を断ち切らないといけないのだが、残念ながらこれまでの政府の対策は奏功しなかった。今回は統一地方選挙の開始を前にして、ティト国家警察長官が汚職撲滅委員会と「金権政治対策合同チーム」を発足させると発表している。汚職撲滅委員会が関与するので実効性を期待したくなるが、他方で因縁関係にある警察と汚職撲滅委員会がうまく協調して成果を上げられるか期待半分、懸念半分というところだろうか。過去に両者の間では警察幹部の汚職摘発などを巡って全面戦争になったり、なりかかった事件が少なくとも3度はある。しかしもしこれが本当に成果を収めるころができたら、新年のお年玉としてこれ以上の贈り物はないだろう。(了)